二羽鶴酒造場 能登三年酒
- 2017/05/31
- 16:51
石川県鹿島郡鳥屋町の二羽鶴酒造場 能登三年酒

日本酒の楽しみ方の中でも熟成を楽しむのは、非常に面白い楽しみ方です。
江戸時代には熟成酒が楽しまれていましたが、明治に入り熟成酒が楽しまれなくなり、昭和の戦争が終わり世の中が安定した頃から、再び楽しまれるようになりましたが、その切っ掛けは蔵の中から出てきた古い売れ残りの日本酒と言われています。
熟成のプロセスは完全に解明されていませんので、日本酒醸造のように酒質の具体的な目標に向かって日本酒を造る事が出来ません。
ただし、ある種の傾向のようなものは判って来てますから、熟成の進み方を想定して日本酒醸造は行われています。
醸造と熟成は全く違うプロセスで、醸造は酵母を初めとする様々な微生物の生理作用を利用して行います。
熟成は微生物が関与するのでは無くて、日本酒の中で含まれている様々な成分が長い時間を掛けて、ゆっくりと化学反応が進んで行く事により起きます。
様々な化学反応が日本酒の中で起きていますが、熟成酒独特のカラメルを焦がしたような味わいを含む複雑な甘さや、熟成酒独特の熟成香なども化学反応の結果です。
この化学反応は非常にゆっくりと進みますので、熟成酒は時の流れが作り出した味わいです。
一般的な化学反応と同じように反応速度は温度に依存していますから、熟成させる温度環境は熟成に大きな影響を与えます。
日本酒を熟成させるに当たって、熟成に適した酒質は存在するようですが、通常の火入れの日本酒や生の日本酒でも、時の流れの中で素晴らしい熟成酒になる事は珍しくないです。
呑み忘れて古くなった日本酒が出てきた時には、味見をしてから再び栓をして押入れなどの、暗いところにしまい時々味見をしながら熟成の経過を楽しむのも面白いです。
中には時の流れに耐えることが出来なくて、時間の経過と共に味わいのバランスが崩れるものも有りますが、試飲した時にバランスが悪くても再び栓をして、時の流れに任せることにより、素晴らしい味わいに化ける事も有ります。
日本酒熟成に関わっている方の中では、ある時に一気に熟成が進み味わいが良くなる事を「酒が解脱した」と表現する方もおります。
日本酒は腐敗する事は有りませんので、管理は光を遮る事だけですが生の日本酒に関しては、麹由来の酵素が活性を保っている可能性と、乳酸菌の仲間の火落ち菌が混入している可能性が有りますので、低温で熟成させるかあるいはリスクを承知の上で、常温で熟成させるかが悩みどころです。
実際、生酒を常温で管理して素晴らしい熟成酒になる事は良く有ります。
日本酒の中で生息出来る微生物は限られており、代表的なものは硝酸還元菌、野生酵母、乳酸菌、乳酸菌の仲間の火落ち菌と酢を作る酢酸菌などです。
火落ち菌は乳酸菌ですから日本酒の中で乳酸を作り、味わいのバランスを悪くして菌の数が増えるとコロニーを作りますので、白いもやもやのようなものが生まれて見た目が悪くなります。
日本酒の火落ちは乳酸醗酵が行われているので、火落ち菌が繁殖した日本酒を呑んでも特に問題は無いですが、日本酒の味わいとしては問題が有ります。
酢酸菌は酢酸発酵をして日本酒を酢にしますので、日本酒に酢酸菌が入り込んでも酢になるだけですから、これを飲んでも健康上の問題は無いです。
米酢を造る時には最初に純米の日本酒を醸造して、それから酢酸発酵に入ります。
今回の「能登三年酒」は詰めが平成7年で詰めた時に既に3年熟成でさらに、店内でかなり長い時間を過ごしておりますので、かなり熟成が進んだ状態ですが呑むと複雑な甘さや、その中に含まれている爽やかな感じの味わい、きりっとした辛さなどがバランスよく楽しめます。

日本酒の常温熟成は日本酒が置かれている環境温度の影響を受けますので、今回の「能登3年酒」は唐木屋の店内の環境温度により熟成されたことになります。
最初の色合いは透明感の有る黄金色を濃くしたような感じですが、現状はかなり色合いが濃くなり、ビンのガラスにも色が付いている状態です。

猪口に注いだときの色合いは見るからに美味しそうな色合いになっています。

日本酒の熟成は三歩進んで二歩下がるようなイメージですが、空気に触れた状態でも全く問題が有りませんので、たまに試飲をして熟成の進み具合を確認しながら楽しむ事が出来ます。
日本酒が熟成すると時の流れと共に色合いが濃くなるのですが、そのままドンドン濃くなる日本酒も有れば、有る時を境にしてドンドン透明になる日本酒も有りますので、日本酒の外見的な状態から熟成を判断する事は不可能です。
時の流れにより作られたのが熟成酒です。
この「能登3年酒」が醸造された時から今日までの、自分の人生を振り返りながら、時の流れに想いをはせながら楽しむのも熟成酒の楽しみ方ですね。
「唐木屋のなか」で有料試飲できますので、皆様のご来店を心よりお待ちしております。